日曜日の夕方~月曜日の朝……
ついに車いすの女の子が葬儀司会デビューした…と云うより、端から見れば「強引にやらされた」が近い
…………業務日報を見ると
通夜が無事に終わり
月曜日は道路渋滞となる為、専務は彼女を総務局にお泊まりさせた
夜遅く、入浴の事を心配していた彼女のお母さんがやって来てシャワールームを見ると
丁度、赤ちゃんのベビーバスにお子ちゃま達と一緒に入り、子供達に体を洗ってもらっている娘に凄いショックを覚えた様で………
『娘にも尊厳がある!』とクレームを付けたそうだ
(※大体、お母さんも来るのが遅いって…)
側にいたお母さん顧問弁護士が
どの様な尊厳?
お母さんを必要とする尊厳?
お母さんを必要としない尊厳もあるのでは?
娘さんは個人。
子供達と娘さんだけで、楽しそうにベビーバスに入ってませんでしたか?
………そう露骨に言い返したそうだ。
お母さんは、総務局に来る様になった娘が、どんどん自分の手から離れていくのが寂しい様で
もっと言えば
私達が娘さんをお母さんからとり上げた…
そう云う事。
まぁ…これが障害者を障害者として正しく扱う会社ならば、彼女もこんなに変わらなかっただろうけど…来た会社がマズかったね
彼女は障害があっても、何とか楽しく生きる術(すべ)を見つけてしまった。
彼女はお母さん以外の人から
どうしても困った時に助けて貰う術(すべ)を見つけたのだ。
私と後輩社長は
『この人も働けないかな……?』と彼女から同じ様な障害を持つ女性を紹介された事がある。
彼女の顔を立てる為、仕方なくその女性の家に行くと
ヘルパーさんが来ていて
そのヘルパーさん達を偉そうな物言いでアゴで使う(彼女もアゴしか動かないが…)のを見て早々に興醒めした。
ヘルパーさんが私達にお茶とお菓子を出してくれて…私達の車いすの女の子に食べさせてくれた。
私達の彼女は食べさせて貰った後、
『ありがとう御座います。感謝してます』と言うと…ヘルパーさん達は「ハッと」した顔で彼女を見た。
反対に障害者の女性はバツが悪いって顔をした。
この様な障害者は…ハッキリ言って多い。
ウチの総務局でそんな事やると…
誰も助ける事も無いばかりか、凶暴な麻理鈴に藪の中で車いすから放り出される可能性もある
当然、こんなのを雇うはずも無く
私達の女の子は彼女から「あなたはズルい!」と言われ、それから障害者の集まりとも付き合いが殆ど無くなったそうだ
先の女性にとってのヘルパーさんが、私達の女の子のお母さんに当たる
私達の車いすの彼女は『感謝』する事『それを判る様に相手に伝える』事に気付いた
そして…自宅でも自分で何とか出来る事は自分でやる様になる
彼女にとっての親離れ……
『頼りにされなくなった…』
そうお母さんは思っている様だった
…………ボイスレコーダーによる専務の日報
病気柄……彼女はお母さんよりも先に死ぬ
彼女もそれは知っている
だからお母さんが、かた時も自分の手から離したくないのは当たり前
でも、一人の人として、一人の女の子として生きる事は、生きる為の活力となり…
生きていたい!!
そう本気で思えば、気力と命数を完全に使い切るまで人は生きる
そう専務はお母さんに言う
『お風呂から出る!!』
奥で娘さんと子供達が叫んでる
お母さんの出番です。
娘さんの為に、娘さんと子供達をお風呂から上げて下さい。
泊まれるなら娘さんと一緒に泊まって、明日の告別式での娘さんの仕事を褒めてあげて下さい。
私達は、契約した首から上と僅かに動く指先と契約しました。
当たり前の事は『お疲れさま』しか言いません。
褒める事が出来るのはお母さんだけです。
そうだ…
褒めてあげるのはお母さんだけなのだ
別に子離れの必要などない
ただ側に…近くにいれば彼女はもっと明るく元気になる。
車いすの女の子の事を誰よりも理解し、愛しているのは私達じゃない……
お母さんなのだから……
…………告別式の後
お母さんと女の子…そして麻理鈴は、行列の出来るラーメン屋に行ったそうで……
ギョウザとラーメンに
ニンニクたっぷり入れて食べて来た……
………お陰で総務局はニンニク汚染だ…