「ボス、この子の顔を直して…」と
電話が来た
暫くして
目を真っ赤にしたキャンディと秘書の子が、小さな女の子をストレッチャーに乗せて復元施行室に入ってきた。
顔面麻痺か?
少し歪んでいる
キャンディに、控え室にいるハズの両親に「この子が笑った顔の画像が写ってる何かのデバイス」を借りて来る様に伝え…………
……………死後硬直が始まった顔を、子供らしく少し微笑んでる様に、病気の苦痛から解放されて安らいだ表情に完璧に直した
やっぱり痩せてるな……
この女の子の病気は脳腫瘍の一つ
「脳幹グリオーマ」
脳幹に出来るガン。発症後、2年以内には殆どの患者が死んでしまう……助かる見込みが無いガンなんだ……
…………昨日は貯まりに溜まった復元遺体の施行の為、2部長の妹に大吉ちゃんと昌子ちゃん達を頼んで、私はラボに缶詰め。
ノエちゃんとアレクちゃんとで、専務が作ってくれた遅めの晩ごはんを食べていると、
キャンディが疲れ切った顔で事務室に入ってきた。
「ボス、神って居ないね」
(何を今更言ってんだ…背教者のあんたが一番判っているだろうよ。)
葬儀の打ち合わせの時、お母さんに
この子の命がもう直ぐ終わると判っていても、ひょっとしたらこの子は助かるんじゃないか……?
そう思って…神や佛、朝日や一番星にも祈ったけど、ダメだった。
私はダメな母親だからでしょうか?
やっぱり神も佛も居ないんですよね……?
そう聞かれて何も答えられなかったそうだ
どっかの宗教家なら、聖書や経から引用して答えるのだろうが、その答えは付け焼き刃の的外れだ。
芥子の実や辛子種の話でもするのかい?
私だってね……判らないし答えられないよ…
奥から「無き王女のためのパバーヌ」が聞こえてくる
麻理鈴の冷たく乾き切ったピアノの音……
深い悲しみの深遠にいる母親の心の様だ