死体を愛する小娘社長の日記

小娘の葬儀社社長の私が、本心だけストレートに書く日記。社会 時事・各種宗教・社会哲学・古典・日々の出来事など

山谷ブルース

 

「モモさん…

   宴会なんだから何か歌ってあげてよ……」

 

      だから私は歌う

 

 

流れ流れて 落ち行く先は

北はシベリヤ 南はジャワよ

 

思えば哀れ 二八の春に

親の御胸を

離れ来てより過ぎ来し方を

思いて我は遠き故郷の

御空ぞ恋し

「流浪の旅」より

※二八の春→2×8=16→16歳の春

 

 

昨日の夜。ひかりが一人(後輩社長)…死んで寝てる爺さんの遺体と呑んでいる

 

私も焼酎を持って来て、二人と車座になって呑んだ

 

 

爺さんのゴツゴツの手

    山谷の日雇い労働者

 

ドヤじゃないけど古い荘の部屋で一人で死んだ。自然死…身寄りも居ない

 

顔もガサガサで太いシワだらけ

 

  でもね…凄い良い顔してるんだよ

 

 

何て言うのか……

やり切ったでも無い、解放されたでも無い

 

しいて言えば「終わったー!!」って顔かな。本当に良い顔している。

 

 

隣の霊斎場では専務が親族だけで大規模音楽葬を敢行していて、ど派手な演奏が聞こえて来る

かたや棺の中で一人転がっている爺さんが不憫で……

ひかりは斎場の酒保から「森伊蔵」を持って爺さんと二人で宴会をしていた

 

 

なんかこの爺さんの死に顔を見るとね……私は「魔王」で付き合う事にした

 

黙々と淡々と手酌…無言で呑む

 

 

「モモさん…

   宴会なんだから何か歌ってあげてよ……」

 

私が「流浪の旅」を無伴奏で歌っていると、後ろからアコーディオンが伴奏を始めた

 

キャンディだ

私達の事をどこかで見ていたみたい

 

彼女のアコーディオン…心に滲みる………

 

 

私が歌い終わると

  彼女が歌い始めた

 

今日の仕事はつらかった

あとは焼酎をあおるだけ

どうせどうせ山谷のドヤ住い

ほかにやることありゃしねえ

 

涙がドバーッと出た

何処で覚えたのか「山谷ブルース」

 


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工事終れば それっきり

お払い箱の おれ達さ

いいさ いいさ山谷の立ちん坊

世間うらんで 何になる

 

だけどおれ達ゃ 泣かないぜ

はたらくおれ達の 世の中が

きっと きっと 来るさそのうちに

その日にゃ泣こうぜ うれし泣き

 

歌い終えるとキャンディも

爺さんの足元にあぐらをかいて座り「旭神威」をラッパ飲みしてる

 

   八代亜紀版 山谷ブルース〉

 

言葉なんて無い

山谷ブルースがこの爺さんの人生全てを物語ったのだから

 

それでいいんだ。

葬儀とは、その人らしく生き終える為に、幕を降ろす手を貸す事なんだよ……………

 

 

……………いつの間にか…

ノエルちゃんは私の膝の上、私とアレクちゃんは壁を背にしてもたれ合って寝ていた。

キャンディと後輩社長は既に居ない

 

また徹夜しちゃったね……アレクちゃん

 

 

早朝……

隣の音楽葬の親類家族が楽しそうに朝ご飯を食べてるのを横目で見ながら、火葬場へ出発していった。

 

出発時刻が早まってる

東京にはこの爺さん達が作って残した建物、道路、橋梁が沢山ある

 

少しだけど今も残るそれらを見ながら火葬場へ向かうそうだ。



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     さようなら

      さようなら…爺さん

 

 

          ……………桃子の日誌…