誕生………
曙から突然、眩い光を放つ…無量光だ
2600グラム 少し小さな男の子
本当に…
本当に…私の荒み切った心でさえ洗われていく
感無量だ
深夜、総務局の隔離室で
予定日より11日も早く破水した総務局社員の出産に立ち会った
旦那は仕事で根室、両親も間に合わない
「ももさん!一緒に居て!!」と言われ
完全防備で分娩室へ
血まみれの小さな体で…大きな声で息を吐く
人は息を吸って死に
息を吐いて産まれて来る
だから死は生の一部なんだ
その小さな体は暖かい
これが命なんだな…
私は初めて剥き出しの生命そのものを抱いた
この産科は
私達の所に、人として生きて産まれて来れなかった、12週未満の赤ちゃんの火葬を依頼してくる病院でもあり、
当社の多くの社員が出産する病院
そしてノエルちゃんを内緒で入れてくれる良い病院でもある
来る時、乗って来た待機中の寝台車の運転手にご苦労さん賃を渡して帰し
院長と産婆さんとで缶コーヒーを飲んだ
「社長…少し人生観が変わったでしょ?」
『うん…』
「霊柩車で来るのはやめてね♪(´ε` )」
『今日は寝台車だから大丈夫 ( ̄0 ̄)』
そう…旦那が仕事で家に一人きりが不安な妊婦社員は、総務局の隔離室で寝泊まりするけど
突然、産気付いた時、霊柩車が居たらそれで来る時も有る。今日は白のヴェルファイア。
「産まれるって良いでしょ?」
『うん…』
そうだ…
この院長と初めて和やかに話しをした。いつもシリアスな会話しかしていない…………
…………赤ちゃんを見に来た専務のシトロエンで第一ラボへ向かう
『可愛かったね』
「うん、凄い可愛い……」
『会頭…死んだみたい。
ロリポップ常務から報告を受けた直ぐ後……』
「そうか……じゃあ明日かい通夜?」
『うん、だけどクラスターが怖くて密葬だよ』
あの臆病な息子らしい………
「弔電打ってお終い…全部、終わりにしよう」
なんか赤ちゃんの誕生を見ると、老害なんかどうでもよくなった。
そう…
どうでも良いんだ…………
樹理専務…
長い間、心配掛けてゴメンね
今日で全てお終いたよ……