私達の会社は
最初から獰猛だったわけでは無い。
まだシッポを切り捨てながら逃げ回る小っちゃなトカゲだった頃……
私達は様々な人に助けてもらったおかげで、生きながらえる事が出来た。
私達はその恩を絶対忘れない。
………昨日…そんな恩人の小さな花屋の老主人から「是非、来て欲しい…」と言われ…
私、後輩社長、専務が向かった
以前にも書いたけど
葬儀業界は異常な業界で、納品先の葬儀屋が決まっていれば、他の葬儀屋から注目があっても受注してはいけない。
守られなければ干されて潰される事もある。
その当時、私達はこれに苦労していて
他の葬儀屋の嫌がらせもあり、ある営業範囲内で花屋に総スカンを喰らい、とても困っていた
そんな時、専務がこの小さな花屋を発見し、老主人に正直に理由を話したら「いいよ!」と……
可哀想だと言って卸してくれる様になった。
でも、以前の葬儀屋から受注を止められてしまう。
花屋は一時的に倒産寸前になったけど、それでも納品し続けてくれた。
私達はこの方面で数多くの葬儀を受注し、倒産させる事を回避し、売り上げも増加する事が出来た。
店に着いて……
ご主人は結婚している娘さん(旦那は普通の会社員)と一緒に居た……
「俺はもう歳で歩けないし…これ以上は無理だから、娘に店を譲る事にした。
何があっても必ず納品させるから、どうか娘の後ろ盾になって欲しい」
と頭を下げ…娘さんも
「宜しくお願いします!」と深々と頭を下げた。
あの親にして…この子
そしてこんな感じのオヤジと娘が「江戸っ子」って言うのだろうか…
「それと…コイツの連れ合いが一緒に花屋をやると言ったら反対して欲しい」と……
普段、老主人は眉間に縦じわがあるのだけど、今は苦役から解放された様な穏やかな顔…
目には優しい…穏やかな光がたゆかっている
まるで…ロリポップが大好きだった…死んだ従軍看護婦の婆ちゃんにも通ずる……
そして娘さんは、ロリポップと同じ目をしているが…
私達は、恩人に頭を下げられる筋合いは無い
「どうか私達に後ろ盾をさせて下さい、いままで通り助けて下さい…」
と、頭を下げてお願いした………
……奥さんが「固めの杯」だと言って杯とお酒を振る舞ってくれた。
私達は同年代の人間が経験しない
人のどす黒く、腐った世界にドップリ浸かり、心もスレて荒んでしまった
でも…私達は固めの杯の様に、信じる事しか拠り所はないのだ
だから…この人達と共に歩いていく
いつまでも………