昨日は復元手技のすり合わせの日。
遺体復元を行う私たち復元技術担当は、日々様々な状態の死体と接し
1つとして同じ状態の死体は無く、今までの経験から新しい手技をあみ出し死体を復元している
だから月に2回、新しい復元アイデアと手技を私、後輩社長、ラボ長、保証長、部位造形担当の吃音のラボ副長の5人で共有する為に研修を行う。
亡き母に聞いた事があるけど、血液像、尿沈渣、クロスマッチ、不規則抗体、粒子凝集反応検査などを用手法で行う時、
技師の個人差を是正し、一定の結果を出す……とかでは無い。
一定の結果が出る事は土台の土台だからだ。
各変死体復元室は弱陰圧のクリ-ンルーム。狭いけど前室、エアシャワー室、復元室の構造で……
エンバミングの用具の他、手術道具、オートクレーブ、中古の各種電気メス、中古の無影灯などもあり…呼吸補助無しの簡単な手術なら可能な施設。
ストレッチャーも寝台車から直接搬入できる様に改装してある。
昨日は5人の他に…
私にくっついて離れなくなった黒にゃんこのノエルちゃんが、エアシャワー室の窓ガラスに取り付けたニャンコのハンモックで見学している
昨日…本部復元室で寝ている死体は
おばちゃんとおじちゃんの2人。
おばちゃんはSLE(死因は違う)で顔に蝶形紅斑があり…
その中に…
『疔(ちょう)』や『せつ』が出来ている。
更に死斑の境目の部分に大きな粉瘤もあり、綺麗な遺体とは言えない。
だから、1つ1つ『ちょう』や『せつ』を開いて、出来る限り顔を平らにして…
粉瘤もモノポーラで切開、バイポーラで止血、皮膚の約0.5ミリほど下を縫合して…傷口が絶対に判らない様に
そして不自然にならない様に…少しだけ紅斑が判るメイク、死斑との境目も判らない様に、
生きて寝ている様にするのは簡単だけど、綺麗な死体にするのはけっこう難しい
色調の調整は吃音のラボ副長の役目…
ワックス色調の調整法を議論と筆談で決めて…
発疹で盛り上がっている部分と正常な部分との擦りつけも完璧
絶対に遺族の想像を越える出来になった。
問題は…おじちゃん。
身元は判ったけれど、それまで…多分、ホームレスやってたって感じ……
変死体の殆どは、頚椎上から髄液を採取されていて孔があいている。
そこからの出血が止まっていなくて、納体袋にかなり血液が漏れている。
なので止血ジェルを注入して塞ぎ
汚れた全身をゴシゴシ洗うのだが……
その前に、この様な死体の場合…男も女も気を付ける事…それは
『毛ジラミ』
かなりの確率で存在している
なので…納体袋からすぐに出さないで、塩酸グルタールを繰り返し全身に塗布。
2時間以上放置してから全身を洗浄する
体を拭いていると、やっぱり毛ジラミの足とかの破片がキムタオルに付いている。
ふと保証長を見たら割り箸と…コレを
器用に使って玉玉と中足を摘まみ、避けて拭いている
中蒸れしそうな所は虫の数も多く、まだ生きているモノもいる可能性大で、注意が必要だから……
……しかし、玉ゝの処置に『お玉』を使うとは…皆、恐れいったΣ(・ω・ノ)ノ
閃きの変態さでは彼女の右に出る者はそうそういない
右手に割り箸とお玉を同時に持ち、惚れ惚れする様な玉捌きで…女の人のナニにも使える
すぐに彼女の技法は全員一致で採用となる
全員真剣に保証長に出来る様になるまで、お互いに指摘しあいながら教わった
誰一人ヘラヘラなどしていない……
私の大好きな時代劇『子連れ狼』の中で…
大五郎、それが持つということだ。
百姓が鋤、鍬を持つ如く、
物売りの町人が天秤棒を持つが如く、
その持ちたる物の重さを感ぜす己と共にありてなるを初めて『持つ』と言うのだ。
わかるか、父の申していることが…
と、言う一刀の言葉を思い出した……
皆、同じ事を言う…
『総務子会社に毛ジラミなど絶対に持ち込んではならない………』
それに総務子会社にはニャンコ4匹とか…人を含めた毛むくじゃらが沢山……
ここに毛ジラミを持ち込むと…風邪、インフルエンザ、ノロにロタウイルスを皆で廻す程度では済まなくなる。
この拝一刀の言葉はあらゆる事に言える
特に代金をとり生業としている事に……
これが代金と言う対価を得る者に必要不可欠な技術と心構え。
これが無い者に『技術者や商人』を名乗る資格は無いのだと私は思う…
貴方は一刀や大五郎の様に『持つ』資格、資質はありますか?